初めての料理

初めて作った料理は
「わかめの酢の物」でした。
普通は、カレーライス、とか、野菜炒め、とか、チャーハンとかですよね。
わたしはなぜか、わかめの酢の物。

あれは、わたしがまだ小学校2年生のときでした。
母は、運転免許を持っていなかったので、免許をとりに自動車教習所に通っていました。わたしは2年生、弟たちはそれぞれ5歳と4歳。
ときどき教習所にも連れて行って、教習所の職員さんが面倒を見てくれたりしていたこともあったのですが、さすがに毎日は無理で、時々、父が残業を早めに切り上げて、わたしたちの面倒をみていました。

教習所が混んでいるときもあり、なかなか夕飯の時間に間に合わせて帰ってくるのが難しいときもありました。母は慣れない勉強と運転の練習でくたくたになって帰ってきてから、夕飯を作ってくれていましたので、それを見て、子供ながらに、大変だな、と思っていました。おまけに父も料理なんてできない人でしたから、母が作るしかありません。

ある日、今日もお母さん遅くなるけど、すぐお父さん帰ってくるからね、と母が出かけていきました。
なぜかその瞬間、
「今日はわたしが夕飯作ろう!」
と心の中で思い立ったのです。
母を見送ってから、冷蔵庫の中身を見てみます。母は帰りに買い物をしてこようと思っていたのか、冷蔵庫の中にはあまり食材が入っていませんでした。

すぐに父が帰ってきました。
「今日わたしがご飯作る」
と言うわたしの言葉に、父は少し驚いて、でも
「じゃあお父さんはご飯を炊こうかなあ」
と言いました。
わたしは大人になった気分でした。家族の料理を作るという大役を任された・・・!そんな気がしたのです。
それにしても困りました。冷蔵庫にあるものといったら、塩蔵わかめくらいです。
ふと、母がよく作ってくれている、わかめの酢の物を思い出しました。よし、味を思い出して作ってみよう。
確か、わかめは洗って塩を落として、ボウルか何かに入れて戻していたはずです。一所懸命、塩を洗って落します。水をはったボウルにわかめを入れて、浸しました。ところが、母がどれくらいの時間、水に戻していたかが分からず、結局戻しすぎてブヨブヨになってしまいました。

そして、味付けです。これは奇跡的にうまくいきました。母が、何を入れているか横で見ていたことがあったので、覚えていました。

できたころ、母が帰ってきました。
酢の物と、炊き上がったご飯に驚いた様子の母。酢の物とご飯以外にも、何かおかずを付け足したかどうか、記憶はありませんが、みんな揃って夕飯です。

母は、「すごい、すごい」と何度もわたしを褒めてくれました。
酢の物に手を付けた弟が
「あっ、このわかめ長いよ!」
と言って持ち上げてみせました。なんとわたしは、切らないといけない、というのを知らなかったので、長~いまま、味付けしてしまっていたのでした。
その長くてすこし柔らかすぎる酢の物を、父と母は、おいしい、おいしいと言って食べてくれました。

それ以来、大人になって、わたしがわかめの酢の物を作ると、
「これ、あんたが初めて作った料理だったね」
と思い出話に花が咲きます。

わかめの酢の物を作るたびに、この頃のことを思い出します。